南京東路沿いの歴史的建造物

南京東路は上海開埠以降の近代化を象徴する商業街であり、沿道には20世紀前半を中心に建てられた歴史的建造物が数多く残されています。

これらの建物は、西洋の建築様式を基調としながら上海の気候や商業ニーズに適応した「海派」建築の特徴を備え、現在も商業施設やホテルとして活用され続けています。

以下に、主要な歴史的建造物について、建設時期、設計・構造、当時の役割、現在の状況を中心に詳しく説明いたします。

和平飯店(南北両楼)

南京東路の東端、外灘との交差点に位置する和平飯店は、南京東路を代表する最も著名な歴史的建造物です。南北二つの建物から構成されており、南楼は1908年に「匯中飯店(Palace Hotel)」として開業した上海に現存する最古のホテル建築です。北楼は1929年にサー・ヴィクター・サッスーンが建設した「沙遜大厦(Sassoon House)」で、華懋飯店(Cathay Hotel)として営業を始めました。1950年代に両棟が統合されて現在の平和飯店となり、近年はフェアモント・ピース・ホテルとして運営されています。

建築様式はアール・デコを基調とし、特に北楼の外観は垂直線を強調したモダンなデザインが特徴です。内部にはジャズバーなど当時の社交空間が残り、チャップリンやバーナード・ショーなど多くの著名人が滞在したことでも知られています。外灘の景観と一体となった立地から、南京東路の東の玄関口としての役割を果たし続けています。

  • 建設時期:南楼1908年、北楼1929年
  • 現在の用途:高級ホテル(フェアモント・ピース・ホテル)
  • 特徴:アール・デコ様式、上海最古級のホテル建築

先施公司ビル(上海時装公司)

南京東路と浙江中路の交差点北西側に位置する先施公司ビルは、1917年10月に開業した上海初の華人経営による大型環球百貨店の建物です。創業者はオーストラリアから帰国した広東中山出身の馬応彪で、四大公司の中で最も早く開業しました。設計は英商德和洋行が担当し、鉄筋コンクリート造の7層建物です。

外観はルネサンス後期のバロック様式を基調とし、開放的なアーケードやコーナータワーが特徴です。開業当初は1〜4階を売り場、上層階を娯楽施設や屋上庭園とし、固定価格制や女性店員の採用など当時としては革新的な経営手法を導入しました。現在は上海時装公司として営業を続けており、上海市優秀歴史建築および文物保護単位に指定されています。

  • 建設・開業:1917年
  • 現在の用途:上海時装公司
  • 特徴:バロック様式、四大公司中最古

永安公司ビル(永安百貨)

先施公司の向かいに位置する永安公司ビルは、1918年9月に開業した四大公司の一つです。創業者は同じく広東中山出身の郭楽・郭泉兄弟で、英商公和洋行が設計を手掛けました。当初は6層(一部7層)の折衷主義古典様式の建物で、後に隣接地に高層の新館を増築し、天橋で結ばれました。

外観にはイオニア式の柱やバロック風の塔屋が用いられ、屋上には「綺雲閣」と呼ばれる塔がそびえていました。内部は高級感のある売り場に加え、ホテルやレストラン、舞踊場を併設した複合施設でした。建国後は市百十店や華聯商廈などの名称を経て、現在は永安百貨として営業を再開しています。南京東路の商業的象徴として、現在も重要な位置を占めています。

  • 建設・開業:1918年
  • 現在の用途:永安百貨
  • 特徴:折衷主義古典様式、複合商業施設の先駆け

新新公司ビル(第一食品商店)

南京東路720号に位置する新新公司ビルは、1926年に開業した四大公司の一つです。創業者は先施公司から独立した劉錫基らで、ハンガリー系の鴻達洋行が設計を担当しました。鉄筋コンクリートラーメン構造の6層建物で、敷地面積約4280平方メートル、建築面積約2万2000平方メートルです。

外観は新古典主義を基調とし、水平方向の軒部を強調した端正なデザインが特徴です。開業当初は上海でいち早く冷房設備を導入し、店内にガラス張りのラジオ放送局(新新電台)を設置するなど、先進的な設備で注目を集めました。現在は上海市第一食品商店として営業を続けており、上海市優秀歴史建築および文物保護単位に指定されています。

  • 建設・開業:1926年
  • 現在の用途:上海市第一食品商店
  • 特徴:新古典主義、冷房設備やラジオ局の導入

大新公司ビル(上海第一百貨商店)

南京東路830号に位置する大新公司ビルは、1936年1月に開業した四大公司の中で最も遅れて完成した建物です。創業者は広東中山出身の蔡昌で、基泰工程司(関頌声・朱彬・楊廷宝ら)が設計を手掛け、馥記営造廠が施工を担当しました。鉄筋コンクリート造の10層建物で、高さ約42メートル、建築面積約2万8000平方メートルです。

外観は装飾芸術派(アール・デコ)の影響を受けたモダンなデザインで、アジアで最も優れた商業建築として評価されました。上海で初めてエスカレーター(オーチス製)を導入したことでも知られ、全天候空調を備えた先進的な施設でした。建国後は上海市第一百貨商店となり、「中華第一店」として親しまれています。1989年に上海市優秀歴史建築および文物保護単位に指定され、現在も南京東路の商業の中核を担っています。

  • 建設・開業:1936年
  • 現在の用途:上海第一百貨商店(第一百貨商業中心)
  • 特徴:装飾芸術派、上海初のエスカレーター導入

迦陵大楼(嘉陵大楼)

南京東路99号に位置する迦陵大楼は、1937年に完成した建物です。ユダヤ系不動産王ハートン(哈同)が妻の羅迦陵の名を冠して建設したもので、德利洋行と世界実業公司が設計、陶桂記営造廠が施工を担当しました。建築面積約1万平方メートルの鉄筋コンクリート造で、当時としては近代的なオフィスビルでした。

外観はモダニズムの影響を受けた簡潔なデザインで、金融・商業機能を持つ建物として使用されてきました。現在は中国工商銀行上海分行国際業務部の事務所として活用されており、南京東路の東寄りに残る重要な歴史的建造物の一つです。

  • 建設時期:1937年
  • 現在の用途:中国工商銀行関連事務所
  • 特徴:モダニズム様式、ハートン関連の不動産

その他の主な歴史的建造物

上記以外にも、南京東路沿いにはいくつかの注目すべき歴史的建造物が残されています。南京東路151〜171号の美伦大楼は、江西中路との交差点近くに位置する優れた歴史建築です。また、南京東路257号の旧哈同大楼(現南京大楼)は1935年に建設され、現在は華為のグローバル旗艦店として使用されています。德利洋行が設計したモダニズム様式の建物で、かつては老介福綢緞局などが入居していました。

さらに、南京東路123号付近の中央大楼は1930年竣工の新古典主義建築で、かつての中央商場の建物です。これらの建物は、四大公司ほど大規模ではないものの、南京東路の街並みの連続性と歴史的厚みを支える重要な存在です。

  • 美伦大楼(151〜171号):江西中路交差点付近の歴史建築
  • 旧哈同大楼(257号):1935年建設、現華為旗艦店
  • 中央大楼(123号付近):1930年竣工、旧中央商場

これらの歴史的建造物は、単なる過去の遺構ではなく、現在も商業や宿泊の場として生き続けています。南京東路を歩く際は、ファサードの装飾や窓の配置、屋上の塔屋などに注目すると、1920〜30年代の上海の繁栄と近代化の息吹をより深く感じ取ることができるでしょう。

この記事を書いた人
shin

15年間ほど経済史や歴史学などの大学教員をしていました。中国好きと旗袍好きと女性好きが高じて「旗袍的新故事」「モードの世紀」なども運営。

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